2010年7月に発生した大雨災害によりJR美祢線は大きな被害を受け、2011年9月までの長期間にわたり運休となった。本稿ではその間、1年2ヶ月余りにわたって行われた貸切バスによる代行輸送について取り上げる。
 なお、輸送状態が安定するのを待って訪問したため、現地の状況については2011年7月〜9月の訪問時を中心とした記述であることを予めご承知置き頂きたい。

Index
1. 2010年7月の大雨災害による美祢線への被害
2. 代行バス運行の経緯
3. 代行バスの運行形態
4. 代行バスに使用された車両
5. 代行バスの運行時刻
6. 各駅の風景(厚狭〜美祢間)(重安〜長門市間)

1. 2010年7月の大雨災害による美祢線への被害

 美祢線は山陽本線厚狭駅(山口県山陽小野田市)と山陰本線長門市駅(山口県長門市)を結ぶJR西日本の鉄道路線である。
 2010年7月15日、降り続いた大雨により厚狭川が氾濫、湯ノ峠〜厚保間にある第3厚狭川橋梁の橋桁や橋脚が流失したのをはじめ、厚狭川沿いを中心に道床の流出が散発するなどの大きな被害を受け、比較的被害の少なかった区間を含めた全線が運休となった。

 被害状況についてはほとんど資料を持たないので詳しいサイト等を参照いただきたいが、唯一、2010年8月の県道開通後早期に並行路線バスの車窓から撮影できた写真を提示する。(四郎ヶ原〜南大嶺間の第7厚狭川橋梁付近。四郎ヶ原バス停付近より撮影)橋梁の手前で路盤が完全に流され、線路が宙吊りになっていた。

2. 代行バス運行の経緯

 上記の災害による不通を受けて、2010年7月21日より美祢線全線に対応する代行バスの運行が開始された。しかし、厚保〜美祢間で美祢線と直接平行する県道33号(下関美祢線)にも厚保駅付近で大規模な崩土が発生して不通となっており、当初は国道316号を直行するルートにより、厚狭〜美祢間はノンストップで運行された。これにより代行バスが経由しない厚保〜美祢間については、7月26日より美祢市がシャトルバスを運行した。

 県道33号の片側交互通行での復旧を受け、8月7日から県道33号を経由し厚保・四郎ヶ原・南大嶺に停車する「県道経由」の代行バスの運行が開始された。(これを受け美祢市のシャトルバスは8月6日限りで運行終了。)従来のルートも「国道経由」として運行が継続され、新たに湯ノ峠駅付近に停留所を設置し、客扱いを開始している。
 この時点では列車の運行ダイヤに合わせて国道経由と県道経由の2系統が運行されたが、原則として美祢で乗り換えとなっており、県道経由については厚狭発の一部と美祢発の全便で長門市方面への接続便が設定されていなかった。

 8月30日より代行バスの時刻が変更され、長門市発着便は一部を除いて厚狭まで通し運行となった。列車の運行ダイヤに合わせて2系統が運行される点は変更ないが、接続関係が若干見直され、長門市から厚保方面へ直通するダイヤが午前中に設定された。また通勤・通学時間帯では厚狭〜美祢間を中心に列車ダイヤの間に増発が行われ、利便性の向上が図られている。

 翌年3月12日より運行内容が大きく変更され、日中を中心に列車ダイヤとの整合性は取られなくなり、長門市経由の運行に対して日中を中心に、美祢以南で国道経由・県道経由のいずれか1便のみの運行となる時間帯が出てきた一方で、厚狭〜長門市間全体では増発となり運行間隔が縮められている。


長門市駅で発車を待つ鉄道代行バス


美祢駅で掲出されていた鉄道代行バスの案内

 鉄道復旧工事が完了し、2011年9月26日より美祢線全線で運行が再開されるのを受け、前日の9月25日限りで代行バスの運行は終了した。

(なお、2010.8.7以降の時刻の推移については「代行バスの運行時刻」のページで詳述した。)

3. 代行バスの運行形態

 代行バスは上記の経緯から、国道316号を直行し、厚狭〜美祢間で湯ノ峠を経由する「国道経由」と、厚狭〜美祢間で県道65号〜県道33号を経由し、厚保・四郎ヶ原・南大嶺に停車する「県道経由」の2経路で運行された。
 途中、厚保、四郎ヶ原、南大嶺(以上は県道経由のみ)、美祢、重安、長門湯本の各駅には駅舎前まで乗り入れるが、湯ノ峠(国道経由のみ)、於福、渋木、板持の各駅には乗り入れず、国道上の既設・仮設停留所での乗降となった。

 駅施設は代行バス乗り入れの如何に関わらず解放されており、中間駅では駅ごとの代行バス時刻表と、配布版とほぼ同様の体裁で全駅が記載された時刻表がセットで掲出されていた。一方道路上の停留所では状況により時刻表の掲出のない箇所も見られた。また駅によっては代行バスの乗り場案内も別に用意されていた。

 代行バスには傍系の中国JRバスの一般路線車を中心に、沿線を中心とした貸切バス事業者の車両も投入されていた。都市型の路線バス(座席数の多い仕様の車両がほとんどであったが)から純然たる貸切車両まで多彩な車両が行き交ったが、乗降の扱いとしては前乗り前降りで統一されており、中扉、後扉のある路線車でも原則は同じであった。
 路線車では行先表示用の方向幕やLED表示器を持つ車両もあったが、使用されず「鉄道代行」や社名の表示で固定されていた。行先や経由(国道経由と県道経由の別)の表示については、紙に印刷したものを前面窓や側面窓の内側から掲出していた。また沿線貸切事業者に関してはJR代行輸送である旨併せて掲出していた。
 2010年8月30日改正以降の時刻表には車種の欄が設けられており、主に中型、マイクロバスが使用されるとの記載であったが、特に2011年3月改正以降では中国JRバスの大型路線車で主に運行されたこともあり、記述に対して比較的大型の車両で運行される場合が多かった。一方、土日等では少数ではあるが記載より小さい車両で運行されるケースも見られた。
 なお、少なくとも2011年3月12日以降については、ダイヤに対して車両(担当)が固定されていた様子である。(なお担当車両の一部について代行バスに使用された車両のページでも記述した)

 代行バスではJRの乗車券類がそのまま通用し、駅では平常通り乗車券の発売を行っていた。無人駅のうち厚保・南大嶺では駅前の商店等に乗車券の発売が委託されていたが、こちらも同じく平常通りであった。(委託発売駅にはこの他湯ノ峠、長門湯本があるが、どちらも商店自体が長期休業中の様子であった。)
 運賃収受は駅員配置の厚狭、美祢(早朝夜間除く)、長門市では駅員が行っていた。それ以外の駅ではバス乗務員が乗車券や運賃を受け取った上で、これらの駅に引き継いでいた。駅員無配置駅から厚狭・長門市を越えて乗り継ぐ場合は両駅まで乗車後、みどりの窓口で発券していた。
 一般路線車両でも車内の運賃表示器は使用されず、上から美祢線区間の三角運賃表を貼り付けていた。(ただし、駅名記載位置が通常と異なり誤認しやすいものであった:写真参照)また上記の運賃引き継ぎの関係からか運賃箱も使用されておらず、運賃投入口には何らかの形で封がされていた。運賃箱付属の両替機は使用していたケースも見られたが、両替金の受け皿を車内で受け取った運賃・乗車券の仮置き場にしているケースが多く見られた。

 鉄道線との接続に関しては、厚狭・長門市駅では接続列車からの乗客の乗り換えを待って駅員が出発合図をする方式が取られていた様子である。また長門市での代行バスから山陰本線への接続については、長門湯本到着時に運転士が乗継客の有無を確認し、携帯電話で遅れ時間と共に長門市駅(と思われる)まで連絡を入れる体制が取られていたようだ。一方厚狭でのバスから山陽本線・新幹線への接続については特別な配慮がされているのは見てはおらず、遅延時の接続は取られなかった可能性もある。

 この代行輸送の実施そのものについては市販の時刻表等でも告知が行われたが、具体的な運行時刻・形態については一般の時刻表への収録はされず、JR西日本のサイト上への掲載や沿線・周辺の駅での掲示・配布が行われたに止まっていた。


駅掲出の時刻表。県道経由運行開始時のものには簡易な系統図も添付されていた。


駅員配置駅では、駅員が案内や集札、発車合図を行っていた。


代行バスの車内。一般路線車についても運賃表等ワンマン機器は使用されなかった。


運賃の確認には三角運賃表が車内に掲出されていたが、斜めに配置された駅名から読むと誤認するものであった。

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余談:当時の掲出物から


バス代行にあたっては専用の案内ダイヤルも用意されていた。


2010年8月7日からの変更を告知する貼り紙

2011.3.12改正の駅貼り用時刻表の例

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